はじめに
投資というと、常に相場を読み、売買のタイミングを考え続けるものだと思われがちです。
しかし、実際に長期投資を続けていると、意外なほど「何もしない時間」が増えていきます。
投資先に問題がなく、自分の投資方針も変わっていないのであれば、無理に売買する必要はありません。
それでも、人は何もしない状態に不安を感じるものです。
「このままで本当にいいのだろうか」
そう考えて、必要のない行動を取りたくなることがあります。
今回は、長期投資における「退屈」と「何もしないことの難しさ」について考えてみます。
なぜ投資は退屈になるのか
投資を始めたばかりの頃は、日々の値動きが大きな出来事に感じられます。
株価が3%上がった。
含み益が1万円増えた。
配当金が入った。
一つひとつの出来事に新鮮さがあります。
しかし、長期間相場を眺めていると、次第に感覚が慣れてきます。
数%程度の値動きでは驚かなくなり、一時的な下落があっても「まあ、こういう日もある」と思えるようになります。
これは投資家として経験を積んだ証拠でもあります。
一方で、慣れてくることで別の問題も生まれます。
暇になるのです。
特に長期投資の場合、一度銘柄を購入してしまえば、毎日することはそれほどありません。
企業の業績に問題がなく、購入した時の前提条件も崩れていないのであれば、本来はそのまま保有していればいいだけです。
積立投資ならさらに単純です。
毎月決まった金額を設定してしまえば、その後は自動的に買い付けが行われます。
非常に合理的な仕組みですが、投資家本人がやることはほとんどありません。
すると、
「こんなに時間が余っているということは、まだ何かできるのではないか」
と思い始めます。
しかし、ここには一つの落とし穴があります。
時間が余っていることと、投資に改善の余地があることは別問題です。
投資では、何か行動しているから利益が増えるとは限りません。
むしろ、良い企業を適切な価格で購入したのであれば、その後は企業が成長するまで待つことの方が重要になる場合があります。
退屈になると信用取引や短期売買に目が向く
投資で暇な時間が増えてくると、より刺激の強いものが気になり始めます。
その代表例が信用取引や短期売買です。
「現物株を持っているだけでは暇だ」
「信用取引を使えば、今ある資金以上の取引ができる」
「短期売買なら毎日の値動きから利益を取れるのではないか」
「もっと資金効率を上げられるのではないか」
そんな考えが頭をよぎります。
もちろん、信用取引や短期売買そのものを否定するつもりはありません。
それぞれ異なる投資手法であり、適切なリスク管理のもとで利用している投資家もいます。
問題なのは、
「退屈だから」という理由で、それまでとは違う投資手法に手を出すことです。
長期投資と短期売買では、求められる判断もリスク管理も違います。
それまで企業の成長性や財務、事業内容などを分析して中長期で投資していた人が、暇だからという理由だけで突然デイトレードを始めたとしても、それまで培ってきた強みをそのまま活かせるとは限りません。
信用取引についても同じです。
「もっと儲けたい」という理由でレバレッジをかければ、利益が大きくなる可能性がある一方、損失も大きくなります。
何か新しいことを始めたくなった時こそ、
「これは投資戦略上、本当に必要なのか」
それとも、
「単に退屈だから刺激が欲しいだけなのか」
一度考えてみる必要がありそうです。
資産は積み上がっているのに遅く感じる
長期投資が退屈に感じられるもう一つの理由が、資産形成のスピードです。
毎月一定額を積み立てる投資は、とても地味です。
たとえば毎月2万円を積み立てた場合、1年間の元本増加は24万円です。
もちろん24万円は決して小さな金額ではありません。
しかし、毎月の口座残高だけを見ていると、
「今月も2万円増えた」
「来月もまた2万円」
という繰り返しになります。
劇的な変化はありません。
ところが世の中には、短期間で価格が大きく動く金融商品もあります。
FX、暗号資産、レバレッジ商品、値動きの激しい小型株などを見ていると、一日で数%、場合によってはそれ以上動くこともあります。
そうした値動きを眺めていると、
「毎月2万円ずつ積み立てている場合ではないのでは?」
という気持ちになることがあります。
しかし、ここで忘れてはいけないのは、価格が速く動くことと、資産形成が速く進むことは同じではないということです。
上方向に速く動く商品は、下方向にも速く動きます。
一方、積立投資の強みは派手さではありません。
長期間継続することで元本そのものを大きくし、そこへ運用益を積み重ねていくことにあります。
毎日見ているとほとんど変化がないように感じても、数年単位で振り返ると、
「いつの間にこんなに増えたんだろう」
という状態になることがあります。
資産形成は毎日見ると遅い。
しかし、数年単位で見ると意外と速い。
これが長期投資なのかもしれません。
大儲けを狙うと失敗しやすい理由
投資で大きな利益を得たいと思うこと自体は、ごく自然なことです。
そもそも資産を増やしたくて投資をしているのですから、できるだけ多く儲けたいと思うのは当然でしょう。
しかし、
「もっと儲けたい」
から、
「短期間で大儲けしたい」
へ変わった時は少し注意が必要です。
一般的に、大きなリターンを期待するためには、それに応じたリスクを取ることになります。
値動きの小さい資産より、値動きの大きい資産。
現物取引より、レバレッジをかけた取引。
分散投資より、一つの銘柄への集中投資。
当たった時の利益が大きくなる方法は、外れた時の損失も大きくなる可能性があります。
特に危険なのは、それまで安定して機能していた投資手法を捨ててしまうことです。
中長期投資で順調に資産が増えていたにもかかわらず、
「もっと速く増やせないか」
と考えて急に高リスクの商品へ資金を移す。
これは、運用成績を改善するというより、まったく違うゲームを始める行為に近いでしょう。
投資では、大きく勝つことだけでなく、大きく負けないことも極めて重要です。
50%損失を出した資産を元の金額まで戻すには、その後100%の利益が必要になります。
だからこそ、資産形成では「一発逆転」を狙うより、致命傷を避けながら長く市場に居続けることの方が重要になるのです。
安定して機能している方法があるなら、それを退屈だからという理由で捨てる必要はありません。
むしろ、
急に大儲けする方法を探し始めたら、自分の中で危険信号が点灯している
くらいに考えてもよいのかもしれません。
長期投資では「何もしない」が最適解になることがある
投資をしていると、
「常に何か判断しなければならない」
と思いがちです。
買う。
売る。
別の銘柄へ乗り換える。
投資比率を変える。
新しい投資商品を探す。
しかし、本当に毎回何かをする必要があるのでしょうか。
たとえば、ある企業について、
「今後業績が伸びていくだろう」
と考えて株を購入したとします。
その後、決算を確認しても業績は順調。
経営方針にも大きな変化はない。
財務にも問題はない。
購入時に想定していた成長ストーリーも崩れていない。
この状態であれば、投資家側が何かする理由はほとんどありません。
株価が多少上下したとしても、投資の前提条件が変わっていないのであれば、保有を続けるという選択肢があります。
つまり、
「何もしない」というのも、一つの明確な投資判断なのです。
何もしないというと、思考停止して放置しているように聞こえるかもしれません。
しかし、
「状況を確認した結果、変更する必要がないので何もしない」
のであれば、それは立派な意思決定です。
むしろ長期投資では、こちらの方が難しいことがあります。
人間は何か行動した方が安心できるからです。
株を売買すると「投資をしている」という実感があります。
反対に、半年間同じ銘柄を持っているだけだと何もしていないような気分になります。
しかし企業はその間にも事業を行い、売上を作り、利益を積み上げています。
投資家が毎日株を売買しなくても、投資先の企業は働き続けているのです。
投資の前提条件が崩れていないのであれば、手法を変える必要はありません。
最適解が「何もしない」なら、本当に何もしなくていい。
これを実行することが、実は投資で最も難しいことの一つなのかもしれません。
たまには投資以外のことにも目を向けよう
それでも、毎日株価を見るのが好きな人もいるでしょう。
私自身、相場を眺めたり、企業について調べたりすること自体は好きです。
ただし、投資のことばかり考えていると、
「何かしなければ」
という気持ちが強くなることがあります。
そんな時は、思い切って投資から離れてみるのも一つの方法です。
ゲームをする。
本を読む。
運動する。
出かける。
創作をする。
友人と話す。
昼寝をする。
何でも構いません。
チャートを閉じて別のことをしているうちに、
「別に今売買する必要はなかったな」
と思えることもあります。
一度距離を置いたことで頭が整理され、投資について冷静に考えられるようになることもあります。
市場は明日も開きます。
来週もあります。
来年もあります。
今日何かを買わなかったからといって、投資機会が永遠になくなるわけではありません。
長期投資をするのであれば、人生のすべての時間を投資に使う必要もないでしょう。
むしろ投資以外の時間を楽しみながら、その裏側で資産が少しずつ積み上がっていく。
それくらいの距離感の方が、長く続けるにはちょうどいいのかもしれません。
おわりに
投資を続けていると、退屈になる時があります。
資産は増えている。
積立も続いている。
投資先の企業にも特に問題はない。
なのに、
「もっと何かできるのではないか」
と思ってしまう。
しかし、その気持ちに従って投資手法を変えることが、本当に運用成績の改善につながるとは限りません。
特に、それまでうまく機能していた方法があるなら、変更する理由がない限り続ければいいのです。
投資で大切なのは、いつでも全力でアクセルを踏むことではありません。
必要な時には動き、必要のない時には動かない。
そして、企業や市場が成長するまで待つ。
資産形成というものは、おそらく想像している以上に地味なものです。
でも、その地味な作業を何年も繰り返した先に、大きな差が生まれます。
だから私は最近、
「投資は退屈なくらいがちょうどいい」
と思うようになりました。
何もしないことに不安を感じた時は、
「やることがないのは、今の投資が順調だからではないか」
と一度考えてみてもいいでしょう。
退屈だから投資手法を変えるのではなく、退屈なら投資以外のことをする。
それくらいが、長期投資とはちょうどいい付き合い方なのかもしれません。
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