今回は、私が実際に接触を受けた業者による、マンションの大規模修繕工事への参入を狙ったと思われる勧誘手口を紹介します。
大規模修繕工事は一件あたりの金額が大きいため、多くの業者にとって魅力的な案件です。
そしてその中には、居住者へ個人的に接触することで業者選定に入り込もうとする、怪しい勧誘手口も存在します。
今回の記事では、私が実際に引っかかりそうになった業者からの勧誘の手法を、時系列に沿って紹介していきます。
マンションに住んでいる読者の方は、ぜひこの記事を読んで、マンションを狙った危険な手口の実態を知っておいてほしいと思います。
無料の風呂掃除から始まった、業者を名乗る男性との接触
ある日、私のもとに一本の電話がかかってきました。
話を聞いてみると、男性は、ある大手施工会社の社員であると名乗り、「営業で近隣の地域を回っているので、よかったら好意でお風呂を掃除させてほしい」と申し出てきました。
私としては、無料でお風呂がきれいになるのであればありがたいし、その後は条件の良い取引にもつながればよいと思ったので、快く承諾しました。
世間話を重ね、趣味や価値観をこちらに合わせてきた
初回の訪問にて、業者を名乗る男性は実際に無料で風呂掃除を行ってくれました。
筆者は動物が好きで、犬猫だけでなく、爬虫類や鳥、魚も飼っているのですが、その男性は世間話の中で「自分も生き物が好きだ」「爬虫類を好きな人がなかなかいないので親近感がわく」などと、こちらとの信頼関係を築くようなことを発言してきました。
当然ながら、無料で風呂掃除をしてくれただけでなく、趣味も合うとあれば、人間悪い気はしないものです。
その男性は私からの信頼を徐々に獲得していきました。
マンションの内部文書を求められた
その男性は風呂掃除を終えた帰り際に「実はここだけの話なんですが……」と神妙な面持ちで、私に大規模修繕工事の話をし始めました。
その男性が言うには、
- 大規模修繕工事は管理会社が旗振りしていることが多い
- 入札といっても実際は入札業者が固定された談合のようなものである
- 管理会社と懇意の業者が利益を上乗せして案件を得ることが多い
ということで、私に管理会社に対する不信感を抱かせるような内容の情報を打ち明けてきました。
そして、「まずはこのマンションの大規模修繕工事が適正に行われているかどうか調べたいので、修繕計画書の写しを提供してほしい」と言われました。
そんなものを外部に漏らして大丈夫なのか?と尋ねると、その男性は「必要に応じて施工業者や居住者が開示を請求できる情報なので、外部に共有しても問題はない。そこで断ってきたら逆に管理会社側がおかしい」と述べました。
私はすっかりその男性の言うことを信用してしまい、二度目の訪問で修繕計画書の写しを渡してしまいました。
大規模修繕委員会への参加を迫られた
三度目の訪問時に、その男性は「修繕計画書を読みました。やはりおかしいところがありました」と言って、私にその計画書の内容について語りはじめました。
その男性は
- 予想通り修繕費用の管理が甘く、必要以上の費用が支払われている
- もし外部業者が入札に参加すれば、安価な入札を警戒して他の業者も値段を下げるはずである
という論理を主張して、外部業者が入札に参加するために協力してほしい、と言ってきました。
そしてついに、本丸である大規模修繕委員会の話を切り出してきたのです。
大規模修繕委員会とは、大規模修繕工事に向けて、工事内容や業者選定などを検討するために設置される委員会です。
委員の募集方法や参加資格、委員会に与えられる権限はマンションによって異なりますが、居住者や区分所有者が委員となり、工事計画や施工業者の選定について検討する場合があります。
その男性は私に「修繕委員会に参加して、内部から手助けしてほしい」と述べました。
「外部業者を入れるべきだ」と委員会の会議で発言することによって、委員会の意思決定に干渉し、外部業者を工事に参加させたいというのです。
さらに、その男性は畳み掛けるように「このマンションには同様に協力を申し出てくれた居住者がすでにいるから大丈夫だ」と言って、不安そうな私を励ましてきました。
この発言が筆者を安心させるための方便だったのか、それとも本当にその業者に取り込まれてしまった居住者がいるのか、真相は未だに分かっていません。
月額報酬を提示され、業者側への協力を求められた
男性は私にただで協力しろとは言いませんでした。
- 内部文書の共有に協力すれば月5000円
- 大規模修繕委員会の委員になって協力すれば月20000円
上記のような報酬額や協力内容が記載された、契約書と称する書面を持ってきて、そこにサインしてほしいと言ってきたのです。
この時点で、私はまだその男性を信用してしまっていました。
そして、いまやっていることが本当に居住者として正しい行為なのか、若干の不安を感じつつも、管理会社に対する不信感を植え付けられていたこともあり、これでいいんだと自分に言い聞かせながら、その書面にサインをしてしまったのです。
なお、筆者は男性から提示された報酬を実際には一切受け取っていません。
「早く決めないとまずい」と急かされ、不安を煽られた
その男性からはその後、何度も催促の連絡が飛んできました。
修繕委員会の立候補期限は決まっていたのですが、比較的短期間だったため、「立候補が締め切られる可能性がある」「枠が埋まり次第、委員が確定してしまう可能性がある」などと、私を焦らせるような口調で、一日でも早く委員会へ立候補するよう迫ってきました。
ここに来てようやく、私はいま自分が置かれている立場の異常さに気がつきました。
冷静に整理すると不自然な点がいくつもあった
ふと冷静になって考え直してみると、不自然な点はいくつもありました。
- 名刺を一度も手渡されていない
- 契約書と称する書面には相手方の正式な会社情報が十分に記載されておらず、署名後も控えを渡されなかった
- 最初はある大手施工会社の社員を名乗っていたが、途中から物件紹介業者であると説明し始めた(所属している会社の名前も全く違うものを言い始めた)
- 委員会の話が出た時点でLINEに誘導されて、以降はLINEで全てやり取りするよう促された
これらの不自然な事情を踏まえ、この男性による勧誘は、大規模修繕工事への参入を狙った悪質なものである可能性が高いと判断しました。
筆者が実際に取った対処法
筆者は、この業者に対応するために大きく三つの手を打ちました。
一つ目に、区役所の該当する窓口へ電話をかけました。
電話の中で経緯を順を追って話すうちに、自分の中で「やはりこれは何かおかしい」という疑念が強まっていくのを感じましたし、管理組合に報告するという対処法も知ることができました。
迷ったときにはまず自分が住んでいる区域の役所や、消費生活センターなどの公的機関に相談するのが間違いない対応だと思います。
もし相談先が分からない場合は、全国共通の「消費者ホットライン188」に電話すると、最寄りの消費生活センターや相談窓口を案内してもらえます。
二つ目に、管理組合の理事長へ連絡を取りました。
ありのまま、それまでの経緯と現状を報告し、理事会で議題としてもらうように依頼をしました。
そうすることによって、同じ男性から他の居住者が勧誘を受けた場合にも、理事会として注意喚起や対応を取れるようになるからです。
自分一人の問題として処理せず、マンション全体の問題として情報を共有する必要があると考えました。
三つ目に、その男性への協力を打ち切り、連絡への応答を段階的に止めました。
断つといっても、LINEをブロックしたり、電話番号を着信拒否するというような能動的な方法ではありません。
「とてつもなくスケジュールにだらしない人」を演じたのです。
連絡は全て既読スルーして返信をしない。
委員会への立候補について聞かれても答えない。
立候補期限が過ぎた後も、報告をしない。
こうして、ずるずると期限を引き伸ばした上で、その男性と次回訪問の予定を取った前日になって
「今回結んだ契約について、辞退させていただきます。よろしくお願いいたします。」
という旨のメッセージを一度だけ送りました。
その効果はてきめんで、その後はその男性からの連絡は一切届かなくなりました。
向こうにとっては、求めていた協力を一向に進めず、最後にはそれまでの話を全て断った、一番扱いにくい人物として認識されたことでしょう。
なお、これはあくまで筆者が当時取った方法です。
契約書への署名や金銭の授受がある場合、同じように連絡を放置することを一律に推奨するものではありません。やり取りや書面を保存したうえで、消費生活センターなどの公的機関に相談することをおすすめします。
大規模修繕を控えたマンションが狙われやすい理由
大規模修繕工事は、一件あたりの金額が非常に大きいため、多くの事業者にとって魅力的な案件です。
そのため今回のように、委員や理事との個人的な関係を築こうとする業者が現れる可能性があります。
本記事で紹介した行為が、具体的にどのような法的評価を受けるかについて、筆者には判断できません。
しかし、特定の業者から個人的な報酬を受け取りながら、その業者を工事に参加させるよう委員会で働きかければ、マンション全体の利益よりも、報酬を受け取る個人や業者の利益を優先していると疑われかねません。
少なくとも、公平で透明な業者選定とは言い難い構図だと筆者は感じています。
なお、大規模修繕工事をめぐる不適切な業者選定は、筆者だけが抱いた漠然とした懸念ではありません。国土交通省も、施工会社の選定に際して不適切な工作を行う設計コンサルタントなどの存在を指摘し、管理組合に注意を呼びかけています。
参考:国土交通省「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について(通知)」
もちろん、本記事の男性が同様の事例に該当するかは断定できませんが、大きな金額が動く工事だからこそ、業者選定の透明性を保つ必要があります。
まとめ
今回の一件で学んだ教訓は、下記の通りです。
- 無料だから安全とは限らない
- 親切さと取引上の信頼性は別
- 内部情報を求められた時点で立ち止まる
- 報酬を提示された場合は一人で判断しない
- 管理会社や他の住民に共有する
ただほど高いものはない、ということわざを思い出さずにはいられない体験でした。
みなさんも、自宅への訪問や、居住者の立場を利用しようとする勧誘には十分に注意するよう心がけていただければと思います。
この記事のおかげで、少しでも被害から救われる方がいれば幸いです。
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